須磨さんに見る、絶チルって意外とムズいよね、という話。
お絵描きやら情報ばっかりで、最近あんまり書いてませんでしたが、「絶対可憐チルドレン」の感想みたいなのを久々に。大雑把な話になりますけど。
皆本とザ・チルドレンのファースト・コンタクトを描く「そのエスパー、凶暴につき」。けっこうシリアスなトーンで展開されてますね。おもしろいんだけど、ちょっとムズい。ポイントはやっぱり、ザ・チルドレンの前主任・須磨さんでしょうか。
すでに第7巻から「オバハン」として存在が匂わされてましたが、ようやく登場した須磨さん。いろんなブログでも書かれてますが、椎名センセの初期の名作「ポケットナイト」に出てくる日須持 桐子(ひすもち・きりこ)所長を彷彿とさせます。
甘いこと言う局長に対して「そーゆーこと言ってるから、政府は私を派遣したんでしょーが!」、皆本に対しても「でなきゃ、クビよ。私にはその権限があるわ」なんて発言が際立つ須磨さん、純粋なバベル職員ではないみたいな感じ?
チルドレンに対して、首輪みたいな(孫悟空の緊箍児みたいな)リミッターをつけたりして、けっこう酷い人だなーみたいな印象はありますね。実際、こわいです。
ただ、ムズいなーと思うのは、彼女が「絶対悪」ではない(気がする)、ということです。
ちょっと(かなり)やりすぎな感はありますし、児童虐待で訴えられても仕方ないレベルだとも思うけれど、そもそも厳しく躾けること自体は、決して「悪」ではないと思うんですよね。
最初から首輪に電気ショックで躾けてたのなら、そりゃダメでしょうけど、たぶんそうではないですよね。須磨さん以前の担当者4人はいずれも病院送り。7巻「タッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(2)」を見れば、(自業自得だろうけど)須磨さん自身もいずれ病院送りです。
そうした経緯があるのなら、ある程度やむを得ない処置だったのかも、という気がしてきます。
また、バベル所属の他のエスパーを見れば、チルドレンは特殊な例だというのがわかります。ドクター賢木、ナオミ、ダブルフェイス、ザ・ハウンド、いずれも虐待的な目には合ってない模様だし(ナオミちゃんはどーかな?w)。
もちろん、澪とかマッスル、あるいは1巻の強盗&脱獄犯、8巻のタケシ君の父親なんかを見れば、一般社会的には、エスパーは恐れられ、差別的な扱いを受けていることがうかがえます。
が、ことバベル内部に限るならば、能力/才能に応じた評価を受けていると見ていいんじゃないでしょうか。チルドレン以外は。
でも、じゃあ首輪は正義? と言えば、そりゃやっぱりダメだろうとも思います。特に、連載開始以来の皆本とチルドレンの触れ合いを見てれば、なおさら。ただ、それは結果論だろうな、という気がするんです。
てな感じで、私の(権威なき)判定としては、正義でも悪でもない「グレー」といった感じ。
ちょっと話がそれますが、この「グレーな構図」というのは、「絶対可憐チルドレン」という作品においては、かなり多く見られる気がしています。
たとえば、バベルと対立する「パンドラ」は犯罪組織ですし、兵部少佐にいたっては殺人者ですが、「悪」と断ずることは難しい感じがします。
最近出てこない「普通の人々」なんかも、やってることは酷いけれど、背景となる思想そのものは、物語世界を反映したものです。あえて言うなら、社会全体がエスパーにとって「悪」となるんでしょうけど(たぶん、この「普通の人々」の「弱さ」みたいなのを補うために出されたのが、「黒い幽霊」じゃないかと思いますけど)。
なにより一番「グレー」だと思うのは、チルドレンや皆本たちが目指す「到達地点」です。
兵部少佐をぶっ殺せば(改心させれば)、あるいは「黒い幽霊」を壊滅させれば、それですべてが解決するのなら、割とカンタンな話だけど、そういうことじゃないですよね、きっと。
もっと言えば、パンドラが思い描く未来の方が、むしろ「正義」に近いのかもしれない、なんてことも言えなくもない。
話戻って、須磨さんが「絶対悪」であるなら、話はシンプルです。担当が皆本に変わって、チルドレンも当時より素直になって、あーよかったよかった、となるでしょう。でも、ここまで書いてきたように、そうじゃない気がする。
それに加えて、須磨さんのセリフに、こんなのがありました。
「この方があのコたちのためだってわからないの!?
10年後、きっと感謝することになるのよ!?」
もちろん、これは、ごく一般的な教育論、あるいは組織論をベースとした発言でしょう。でも、絶チル世界には、例の(イルカの伊号おじーちゃんが見せた)「予知」があります。その予知が襲いかかってくるのも「10年後」です。ここに、妙な符合を感じないでしょうか?
そして、「黒い幽霊(6)」(サンデー2007年39号)で兵部少佐が皆本に言ったセリフ。
「彼女(薫)こそエスパーの救世主なのさ。
そして、ノーマルの君(皆本)が、その誕生に手を貸しているんだ」
てな感じに(やや強引に)重ね合わせてみると、皆本と須磨さん、どっちが正義かわからなくなってきませんでしょうか?
「絶対可憐チルドレン」の短期連載版をはじめるにあたって、椎名センセは「もともと「チルドレン」には週刊少年誌作品としてはいくつか文法違反があり」てなことを言われています(完成原稿速報040726)。その「文法違反」が具体的にはなんなのか、実のところ、私の脳みそではまだよくわからないですけど。
ただ、この「到達地点」の「グレーっぽさ」は、少年漫画の文法の中では、かなり料理の仕方がムズい要素だろうとは思っています。
悪の大魔王を倒して終わり、大会で優勝して終わり、世界最強になって終わり、みたいなシンプルなものではない、もうちょっとややこしい世界。それが「絶対可憐チルドレン」なの……かなぁ(あやふや)。
もちろん、それが同時に、この作品をおもしろくしてる、とも思っていますけど。
てなことを、須磨さんを眺めつつ、思いましたのでした。はー、長かったw
【メモ】
元ネタらしきものを、備忘録的に。
- そのエスパー、凶暴につき:映画「その男、凶暴につき」。1989年。監督:北野武。出演:ビートたけし、白竜 ほか。北野武の映画初監督作品。
- 須磨主任:源氏物語の第12帖「須磨」。キャラのイメージは、やっぱり日須持 桐子所長でしょうか。
- 藤浦葉(仮名):源氏物語の第33帖「藤裏葉(ふじのうらば)」。パンドラ幹部の若くて軽めの男。
- 加納紅葉(仮名):源氏物語の第7帖「紅葉賀(もみじのが)」。パンドラ幹部の貧にゅ……じゃなくて、スレンダーな女性。