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手の中の繋がり

作:aki



「じゃあ、お休みなさい、弓さん」

そういって、携帯電話を切った。
電話を切る時は、どこか寂しいと、いつも思う。

お茶を飲みながら進めていた宿題も、やっと終わった。
わからなかった所は弓さんから教わったから、多分いつもよりも完璧にできたはず。

時間はもう遅くなったけれど、最近は新しい日課になった事がある。
それをやるまでは、今日も眠れない。
いえ、それをしたらよく眠れるようになる。

そんな益体もない事を思いながら、再び携帯電話を手に取る。

最近買い換えた最新機種の携帯電話は、カメラの性能が高く鮮明な写真が撮れるのが特長で
たくさん保存もしておける。
その中の、最もお気に入りの画像を開いた。

あの人の横顔。こっそりとカメラで撮影しておいた写真。
いつでも見られるように待ち受け画面に設定した事もある。

「はぁ…」

見ていると、つい溜息が出てしまう。

これを弓さん達に見られた時は、さんざんからかわれたな。
あれはとても恥ずかしかったけれど、ああいうのも女子高生の嗜みかしら?

その時突然、手の中の携帯が大きく震えた。

「あっ」

驚いて取り落としてしまった。
急いで拾うと、もう切れてしまっている。

不在着信を確認すると、どきっとした。

「横島さん?」

急いでこちらからかけ直してみる。
どきどきしながら呼び出し音が鳴るのを聞く。
ぷつっ、と音がして繋がった瞬間、鼓動が高鳴るのを感じる。

「はい、横島です」

「あ、横島さん」

「ああ、おキヌちゃん、ごめん。起こしちゃった?」

すぐ切れたのは、寝ていた時の事を考えてくれていたのかな。
いつも、何かと気を使ってくれているのは嬉しいけれど
もう少し遠慮が無くてもいいのに。

「いえ、まだ起きてましたよ。宿題やってましたから」

「宿題…げっ、そういや俺もあったなあ。ま、いっか」

「いいんですか、そんなことで」

「大丈夫だって、ピートか愛子に写させてもらうから」

本当に、彼らしいと思う。
こういう時にさらりと、他の女の人の名前が出てくるのも含めて。

「ふふ、仕方ない人ですね。それで、何か用があったんですか?」

「ん、用って程じゃないよ。何か声が聞きたくなっただけ」

「!そうですか…」

どきっとする事をさらりと言うのも、彼らしい。
意識して言っていないのはわかっているつもりだけど。
それでも頬が赤くなるのがわかる。

「……」

「……」

なんとなく黙ってしまった。
こういう時、どうすればいいのかしら。

「あの」

「あのさ」

同時に話そうとして、またタイミングがわからなくなってしまう。
顔を合わせている時は、こんなことないのに。

「あ、どうぞ」

「いや、本当に用があるって訳じゃなくてさ。なんとなく電話しただけだから」

用が無くても、電話してきてくれるだけでも嬉しい。
でも、今はもう少しだけ、繋がっていたい。

「そうですか。でも、暇だったら、少しお話しませんか?」

「ああ、いいよ。んじゃ、学校の話でもしようか?」

いつも事務所で会っているけれど、実はそれほど話はしていない。
シロちゃんやタマモちゃんに取られてしまうから。
だから、こうして話ができるのは本当に嬉しい。

「ピートとタイガーがね、本当にもう――」

「弓さんったら、いつも雪之丞さんと――」




気がついたら、電話を始めてからかなりの時間が過ぎていた。

「こんなに長電話になって、大丈夫?こっちからかけ直そうか?」

「いえ。電話代が安いプランにしていますから、ほとんどかからないんですよ?」

電話代がお得なプランについて思い出す。
電話会社の人に勧められたプラン。
名前は「恋人を繋ぐホットライン」プランだったかしら。

だから本当は、横島さんと話す時だけしか役に立たない。
それを勧められた時には頭が真っ白になっちゃったけれど、登録して良かった。

「そっか。でももう遅いし、きりがなくなるから、そろそろ切るよ」

ちょっと残念だけど、明日も学校がある。
いつかは切らなきゃいけないし、ね。

「ええ。おやすみなさい」

「うん、おやすみ、おキヌちゃん」

「……」

「……」

「切らないんですか?」

「はは、なんとなくね。それじゃ、今度こそ、おやすみ」

ぷつっ、と、電話が切れる音が微かに響く。

他の人との電話を切る時は、どこか寂しいと思っていたけれど。
でも、今は寂しくない。きっとよく眠れる。
それとも、眠れないかな?
横島さんも、そうだったらいいな…。

おやすみなさい、横島さん。

挿し絵:サスケ



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